おまけ2・白石さんと、はじめての朝

「白石さんと、恋人になる」の翌朝の話。朝チュン注意

 ふと目覚めると、いつもと違うシーツの香りに不思議な感じがする。あれ、ここ、どこだっけ……とどこか意識のはっきりしないまま寝返りを打って、は、と視界に現れたそれで全ての記憶が蘇った。そして一気に恥ずかしくなる。
 いつも大人っぽい白石さんは、寝顔もとても綺麗だけれど、どこかあどけなさを残していて、いつもより隙のある様子だ。ずっと片思いしていた白石さんと、奇跡的に恋人同士になれて、そして昨日ついに――。
 彼の寝室は遮光カーテンではないようで、日光がカーテン越しにほんのり部屋を明るくしている。身体に残されたいくつかの赤い痕を見つけて、昨夜の色々を思い返してしまった。それまで、白石さんはなぜこんな私を好きになってくれたのだろう、と思うこともあったけれど、昨夜は彼がどれだけ私を想っていてくれているかが伝わってきて、思い出すと胸が熱くなる。
 そんな彼は目の前で、まだすうすうと寝息を立てている。毎日忙しいし、仕事でお疲れなのかな。そんな中、昨夜も……だし。
 まずは身支度を整えて、そのあとは、キッチンを借りていいかわからないけれど、朝ごはんでも用意しようかな。そう思い、そっとベッドを抜け出そうとした、その時だ。

「……だーめ」
「ふぇっ」

 突然、ガッ、とびっくりするくらいに強く腰の辺りを抱き寄せられ、思わず変な声が出た。

「白石さん、起きてたんですか!?」
「……」
「え、寝てる?」

 さっきははっきりと「ダメ」という声が聞こえたはずなのに、彼はまた夢の世界に戻ったようだ。ただ、このままでは白石さんの抱き枕状態になったまま、身動きが取れない。どうしよう。起こすのも申し訳ないけど、一旦やっぱり放してもらおうかな。ぺちぺちと軽く彼の胸板を叩きながら話しかける。

「……白石さん、白石さん」
「……ん」
「おはようございます」
「お、はようさん、……って、」

 最初のほうこそ寝ぼけていた彼も、一気に覚醒したようで、腕の力を緩めると、珍しく動揺していた。

「……! すまん、そうやったな、昨日……」

 彼は少し私から目を逸らしながら赤い顔をしてそんなことを言うので、せっかくさっき一周して完結したはずの感情がまた戻ってきてしまった。私も恥ずかしくなって、白石さんから目を逸らす。お互いにベッドの中で何をやっているんだろう。似たもの同士といえばそれまでだけれど。

「……これめっちゃ照れるな。せやけど、めっちゃ幸せや」

 そう言う白石さんは本当に幸せそうに微笑むので、思わず涙が出そうになった。私もです、と答えると、彼は満足そうに私の頭を撫でる。

「……身体、辛ない?」
「……大丈夫です、たぶん」
「……そか」

 そんな短い会話の中でも、昨夜の甘すぎる時間を思い出してしまい、身体の中の芯が疼く。あんな時間を過ごしてしまっては、今後白石さんなしでは生きていけない身体になってしまいそうだ。今だって、直接肌と肌で触れる彼の温もりが気持ち良くて、離れるのが名残惜しくなってしまう。ただ、現実的に、ずっとこのままの体制でいるわけにもいかない。

「……朝ごはんの準備しようかと思って。キッチン借りても大丈夫ですか?」
「ええよ。冷蔵庫にあるモンも自由にしたらええ。麻衣が作ってくれるんや」
「これからボロがたくさん出てくると思うので、最初くらいは『良い彼女』でいさせてください」
「ハハ。ほんならお言葉に甘えて」

 白石さんはそう笑いながら上半身を起こす。私も一緒にタオルケットに包まりながら身体を起こすと、彼は私の胸元を見るなり、申し訳なさそうに言う。

「……普通に服着たら見えへんとこにしたつもりやけど、ちょお際どいかも。堪忍……」

 主語が無いけれど、何を指しているかはわかるので、また耳までカッと熱くなった。もう。
 そのまま一足先に彼はベッドから出て、床に落ちているお互いの服などを拾い上げる。昨夜着ていたものを、明るい部屋で改めて見られるのも、羞恥心にかられる。彼に渡された私の洋服一式を改めてこそこそと身につけていると、一足先に身支度が整った彼は、観葉植物の世話を始めた。その彼の後ろ姿を見て、ふと気づく。

「あ」
「ん? 何や?」
「……白石さん、可愛い」
「へ?」
「寝ぐせ、ついてます」

 ぴょん、と跳ねたその髪が可愛い。会社で見る白石さんはいつもヘアセットまで完璧で、寝ぐせがついているところなんて見たことがなかった。でも、白石さんも寝ぐせつくんだ。そりゃ同じ人間だもの、当たり前か。それでも、そんな隙のあるところを見せてもらえるなんて思わず、胸がキュンとする。当の本人は、どうやら寝ぐせが恥ずかしかったらしく、「ほんま!? 恥ずっ!」なんて慌てて後頭部を押さえている。

「……肝心なとこでカッコつかへんなぁ、俺」
「ふふ。でもそういう白石さん見れるのは私だけって思ったら、幸せです」
「ハハ。せやな。キミの特権や。って俺の寝ぐせ見たい奴なんて他におるか?」

 白石さんはそんなセルフツッコミをしているけれど、きっと白石さんのことを好きな人はたくさんいるし、彼の寝ぐせを見たい人もたくさんいるだろう。言わないけれど。そんな彼が私を選んでくれた奇跡に改めて感謝しながら、私も身支度を整えて、キッチンへと向かうことにした。

Fin.
2023.7.5
2023.11.3改