「白石さんと、出張」の夜の話。白石視点。ちょっとすけべ。
彼女のことはとても大切にしたいと思っていた。だから勢いに任せて何かするなんて、したくはなかった。だが、「白石さんとなら、大丈夫です」なんて言われてしまっては。
――男として、意識されてへんってことなん? それとも、もう一つの、めっちゃ都合の良い解釈の方で取ってええっちゅうこと?
シャワーを浴びて、ユニットバスから出てきた彼女は、当然と言えば当然だが、すっぴんだった。ホテルの備え付けの白いガウンは、彼女が身につけると少し大きく、風呂上がりで上気した肌がのぞいている。そして、そこはかとなく香る、シャンプーの香り。いや、これ、ホンマに今晩、苦行でしかないやろ……。
彼女と一緒にベッドに入り、ベッドのサイドライトの光量を落とす。この状態で男として意識されていないとしたら、それは悔しいものがある。酒のせいにはしたくないが、絶対素面ではできない選択を、してしまった。
「おいで」
そう言うと、彼女は驚いたような顔をして、でもその身体を俺の方へ近づけてきたので、ベッドの中で抱きしめる。自分のとは明らかに異なる、柔らかで華奢な身体。
「……なぁ、さっき、俺とやったら、ベッドで二人で寝ても大丈夫や言うたやろ」
「……はい」
「それって、どっちの意味? 俺のことは異性として見てへんし、俺もキミに何もせんと思ってるから大丈夫やってこと? それとも、俺にやったら、こういうことされてもええって思ったっちゅうこと?」
――意地悪な質問をしたと思う。彼女がどちらにイエスと答えたとしても、おそらく俺は。
ドライヤーで乾かされた後の滑らかな髪の毛束を掬い、唇を寄せた。ええ香りや。そして唇を離して彼女の顔を見る。そこにあったのは、いつもの可愛い後輩ではなく、『女』としての顔で。ゾクゾクと身体に雷が走る。
「……そない物欲しそうな顔せんといてや。今度はここに、ちゅーしてまうで」
そないな顔、見せたらあかん。そんな顔されたら、キミのことを好きな男は、簡単に欲に負けてしまう。人差し指で彼女の唇をなぞりながら、祈った。ちゃんと断ってくれ。なのに。
「……大丈夫です。白石さん、なので」
そんな彼女の言葉に、白旗を上げるしかなかった。その顔でそないなこと言うキミがあかんで。俺、さっき言うたよな? お願いやから、自分が可愛いっちゅうこと自覚して、危機感持ってや、と。
好きな女の子が、暗に自分のことを好きと言ってくれて、そして、同じベッドの中で、唇に触れても良いと許可を出している。――これで何もせん男がいたら、それは仙人や。
「なぁ、それ反則やで」
「白石さ、」
「――好きや」
彼女に覆い被さり、まずはその顔中にキスを落とす。どこに触れても彼女は気持ちよさそうに身体を捩らせるので、愛おしさがさらに増した。ホンマに何食べたらそない可愛なるん? 顎先にキスをした流れでそのまま首筋にキスを落とす。
「……っあ、ん、」
思わず漏れてしまいました、と言わんばかりの控えめな声に、俺の興奮は高まる。首、弱いんや。彼女は声が出てしまったことに羞恥心を抱いているようで、目に涙を溜めている。――その顔が、どんだけそそるか、わかってるんかな。無自覚やとしたら、困りもんやで。
そのまましばらく首筋や鎖骨、胸元あたりまでキスで攻め続けると、彼女はもう声を我慢することを諦めたのか、子供には聞かせられないような甘い声がどんどん部屋に響き始める。ガウンの第一ボタンに手をかけ、外し、少しずらすと、彼女の肩が露わになった。そのままブラジャーの紐もずらし、今度は彼女の肩にキスを落としていく。
「……っはぁ、」
息も絶え絶えな彼女は、抵抗することもなく、涙目で俺を見つめる。ホンマに俺のこと好きでいてくれてるんやな――と彼女の気持ちが伝わってきて、俺も彼女への愛しさがさらに強まった。こういういじらしいとこも、全部、大好きやで。
そして、ずっと触れてこなかった、最後の場所へ唇を重ねる。そう、彼女自身の唇へ。柔らかな感触が気持ちよく、しばらく触れるだけのそれを味わっていたが、それだけで我慢できるわけがない。なぜなら、もう俺達は、お互いに大人なのだから。
ちゅ、ちゅ、とわざとリップ音が出るようなキスを繰り返すと、彼女の興奮も高まってきたのか、彼女からも俺に求めるようにキスをしてくる。キス自体も嬉しいが、何より彼女から求められている、ということが嬉しい。舌でコンコンと彼女の上唇と下唇の間をノックすると、控えめに彼女はその扉を開いたので、そのまま捩じ込んだ。舌を絡め、歯列をなぞる。彼女の全てを知りたい。
「しらいし、さん……」
キスの合間に彼女は俺の名を呼んだので、聞いてるで、と言葉にはせずアイコンタクトで伝えると、彼女は言う。
「……だいすき」
恍惚とした表情で、あまり呂律も回っていなそうだが、それでも明確な意思をもって伝えられたその言葉に、圧倒的多幸感を感じる。――俺も、大好きや。
そのまま、もうどちらのかもわからない唾液がベッドに滴になって落ち、シーツに染みをつくった。肩から上がすっかり乱れてしまった彼女は、とても扇情的だ。ただ、さすがにこの先は――と理性が踏みとどまる。唇を離して、そのまままた彼女を抱きしめると、彼女は俺の胸元に頬をすり寄せて、疲れたのかそのまま眠ってしまった。
2023.11.3