白石さんと、Web会議

 広告宣伝部に移動してきて三ヶ月目。だいぶ仕事にも慣れてきて、白石さんに頼らずとも自走できるようになってきた。それゆえ、ここ二ヶ月間はお互いに毎日出社し、ちゃんと膝を突き合わせて業務を教えていただいていたのだけれど、三ヶ月目からお互いにリモートワークの日も作るようになった。今日は、ちょうど彼も私もリモートの日だ。
 通知の音が鳴り、PCでチャットアプリを開くと、そこには白石さんからのメッセージが。

『お疲れさん。今日これからどこかで三〇分くらいミーティングできひんかな。新CMの件で確認したいことあって』
『もちろんです! スケジュール空いてるとこならどこでも大丈夫ですけど、白石さんはいかがでしょう?』
『俺も空いてるとこならどこでもええよ』
『そしたら私あとでスケジュール見てインビ飛ばしておきます』
『おおきに。助かるわ』

 白石さんと自分のスケジュール表を開いて、お互いの予定が重ならない時間帯を確認する。うーん、白石さん、今日も今日とて、ミーティング続きだ。ただ、十七時以降は余裕がありそうなので、十七時から三十分のミーティングのインビテーションを飛ばす。きっと、日中は気が張る会議続きだろうし、私みたいな後輩との緩い会議は、一日の最後が良いだろう。

 時間になり、会議URLにアクセスすると、白石さんもほぼ同時にこちらへ入ってきた。カメラをオンにするか悩んだけれど、一応オンにしておいて失礼はないはずなので、オンにしておく。背景は、デフォルトで入っているオシャレ部屋の画像だ。

「お疲れ様です」
『おん。お疲れさん。せっかくやし俺もオンにしよか』

 すると白石さんのカメラがパッとオンになった。背景はシンプルでオシャレな部屋の画像だった。でもこの画像見たことないな、なんてうっすらと思いながらも本題に集中する。

『新CMの画コンテやねんけど、事前確認ってどこまで終わったんやっけ?』
「部長までは終わってます。あとは役員だけです」
『おっ、部長まで確認してくれたんや! 助かるわ。役員は、明日出社した時、一緒に声掛けに行こな。あと仮編(かりへん)の日程やねんけど、代理店の人何か言うとった?』
「仮編集は来週の後半に南青山だそうです。ナレーション担当のタレントさんもそこなら予定つくみたいで」
『意外とタイトやな。ほんなら、今週中に稟議通す必要あるんやけど、書ける? 俺が書いてもええねんけど、せっかく支倉さんがうちの部に来て担当する初めての案件やし、支倉さんから上げたほうが良いやろ』
「もちろんです! ぜひ書かせてください」
『ええ返事や。前に俺が上げた稟議書参考に書いてみて、書けたら一旦教えて。期限は、明日中やったらキツイ?』
「大丈夫です」
『よっしゃ。任せたで』

 画面越しの白石さんに、任せたで、なんて言われたら、改めて身が引き締まる思いだ。一層、責任持ってちゃんとやらなくちゃ。白石さんは、本当は自分でやった方が百倍速いであろう仕事を、私の成長のためにあえて任せてくれていて、そして私が立ち止まった時にすかさずフォローを入れてくれるという、まさに神。そんな先輩の元で仕事を教えてもらえるなんて、社会人としてこの上ない経験だ。やっと少しは自走できるようになったとはいえ、白石さんからたくさん吸収して、早く私ももっともっと戦力にならないと。

『……せやけど、あんまり自分で自分を追い込んだらあかんで?』
「へ」
『支倉さん、顔にすぐ出るタイプやからな。全部やらなきゃ〜って思っとるやろ? ほど良い責任感はええ事やけど、あまり自分にプレッシャーかけすぎると病んでまうで。できなそうやったら、早めにアラート上げてな。そのためにチームで仕事しとるんやから』

 えっ。ついさっき考えていた事が、全部見透かされている。そんなに私って顔に出るのだろうか。それとも、白石さんの洞察力がすごすぎるのだろうか。なんとなく後者な気がする。驚きを隠せないまま、何で答えて良いかわからず、とりあえず無難に「はい」と答える。

『ん。ほんなら、その怖い顔はやめよな』
「えっ、私、怖い顔してます!?」
『ハハ。まぁ、怖い顔は言い過ぎやな。すまん』

 画面の向こうの白石さんは笑っている。そんな白石さんを見てたら、こちらの頬もなんだか緩んできて、思わず笑ってしまった。

『そうそう。笑顔がええよ。楽しく仕事するんがいっちゃんパフォーマンス上がるんやで』
「ふふ。白石さんのおかげでちょっと力抜けました」
『そーか? ほんなら力抜けたついでに雑談でもしよか。仕事の話ばっかりやと息詰まるやろ。出社やと表立って雑談もできひんし』

 そう言って白石さんはおもむろに手元のマグカップを取って飲み物を飲む。会社だとフタ付きのタンブラーやペットボトルを飲まれているけど、やっぱり家の中だとマグカップなんだな、なんて思ったら何故かドキドキしてしまった。と同時に、彼が理由もなく雑談しようなんて言うわけがないこともわかっていて。きっと、私の緊張や過度のプレッシャーをほぐすためなのだ。そう思ったら、そのお心遣いに本当に頭が上がらない。それにしても雑談かぁ。何の話をしようかな、と思った時に、ふと降りてきたのは。

「あ、そういえば」
『ん? どないした?』
「白石さんのその背景画像初めて見ました。新しいやつですか?」
『背景画像、って、今この俺の後ろ映っとるやつ?』
「はい。シンプルでオシャレだなぁって」

 そう言うと、白石さんは珍しく画面から少し目を背けて、頬をぽりぽりと人差し指で掻く。え、私、何か変なこと言った!? 少し焦っていると、白石さんからまさかの返答が。

『……これ、画像やなくて、普通に俺の部屋やで』
「え!? 白石さんのお部屋!?」
『うっかり背景画像セットするの忘れてもうたわ』
「いえ、シンプルでオシャレなので普通に画像だと思っちゃいました……なんかプライベートに踏み込んでしまってすみません」
『別に全然ええよ。そもそも俺が背景そのままにしてたんが原因やし。せやけどやっぱり照れるな』
「……キレイにしててすごいです。私は間違っても、今、背景そのままにできないですもん。あまりに生活感ありすぎて……」
『へえ、そうなん? せやけど、まぁ女の子の一人暮らしやったら部屋は見られたないよな。逆に防犯の意味でも、しっかり背景はぼかさなあかんで』
「ふふ、白石さん、お父さんみたいですね」
『……せめてお兄ちゃんくらいにしといてや』

 珍しく白石さんは少し困ったような顔をしていて、そんな白石さんに、初めて私は、可愛い、なんて感情を抱いた。

2023.9.3