未分類 – ページ 4 – Bonita Princesa

一氏ユウジと付き合い始めたのは、高校生の頃から。お互いに初めてできた恋人と、社会に出て数年経つ今もこうしてお付き合いを続けていられるわけだから、幸運だと思う。 私は短大を出た後、普通の会社勤めをしているけれど、ユウジはデザイン系の専門学校に進学して、そのままデザイナーになった。ユウジのお父さんがデザイン系のお仕事をされているのは前から聞いていたし、彼自身も手先が器用で、ひそかに私服や小物のセンスも良いのは知っていたから、彼らしい選択だな、と思っている。 ただ、社会に出た私たちには、問題が一つ発生した。全くと言って良いほど休みが合わない。私は平日9時〜5時勤務の事務職。一方で彼は、カレンダーなんてあってないようなものだ。土日祝日はもちろん、早朝・深夜など時間すら関係なく仕事は入るし、納期が近くなったら事務所から帰ってこない日だってある。だから、その対策として、私たちは一緒に住み始めた。家を同じくすれば、最悪、家の中では会うことができる。 なのに、だ。 ここ最近、家の中でもユウジに会わない。 『しばらく帰られへん』と、そんなLINEをもらったのは3日前。彼は今東京へ出張していて、今日の最終の新幹線で大阪に戻ってくるらしい。今日は土曜日で、明日は私も仕事が休みだ。今晩は、ユウジの帰りをちゃんと起きて待っていようかな、なんてふと思い、なんとなく自分で自分に恥ずかしくなった。 ――もう付き合って何年経ってるかもわからないくらいなのに、未だにユウジの顔が見れない時間が長引くとちょっと寂しい、なんて。 ＊ 新大阪駅から、大阪市内にある私たちの家の最寄駅まで、そう遠くはない。そろそろ帰ってくるかな。 お風呂はユウジの好きそうな入浴剤を入れて沸かしてある。こんな夜遅くだし食べないだろうとは思いつつも、食事も念のため簡単に用意した。お味噌汁の具には、彼の好物のオクラを入れた。お味噌汁は、今晩は飲まなかったとしても、確実に明日の朝食にはなるだろう。気づいたら、ちょっとは喜んでくれたりするのかな。って、私、何なんだろう。しばらくユウジに会えなかったからって、まるで10代の片想い中に戻ったみたいになっている。 そんなとき、ガチャリと玄関の鍵が開く音がした。この家の鍵を持っているのは私と、そして、ユウジだけ。ちゃんと顔を合わせて会話できるのは何日ぶりだろう？もはやお互いに同じ家にいたとしても寝顔しか見ていなかったりもするから、1週間以上ぶりかもしれない。 「おかえり」 本当は久しぶりのユウジに心が躍ってしまっているのだけれど、バレるのが恥ずかしくて、なるべくいつも通りの冷静な声色を作ってみた。こんなことしたって、プロ級のモノマネができる彼の観察眼では全て見抜かれていて意味がないのかもしれないけれど。そのまま、玄関先へ向かうと、ユウジはキャリーケースを玄関に置いたままコートと靴を脱ぎ、「おん」とだけ呟いた。その顔には明らかに疲れが出ている。 「……20代男子とは思えない顔してるけど大丈夫？」「どういう意味やねん……」「死相？みたいなの出てる……」「この3日間マジで激務やってん。さっき新幹線で寝てきたから少しはマシんなったけどな。荷物は明日直しとくわ」 最後に見たユウジより、目の前のユウジは少し頰がこけている気がする。ご飯もまともに食べる時間がなかったのだろうか。本当はキャリーケースはちゃんと片付けてほしいけれど、あまりに彼が疲れてそうなので、今夜は目を瞑ろう。ユウジの脱いだコートをもらうと、その布は冬の外の空気で冷えていた。ハンガーにコートをかけて、それをそのまま壁のフックにかける。 「お風呂入る？ごはんも一応作ったけど……」 1LDKの部屋。後ろ向きにそうユウジに話しかけると、不意に背後に気配を感じた。気配と言っても、その正体なんて彼しかいない。ユウジは突然後ろから私を抱きすくめる。え。帰ってきたばかりですよね？しかもだいぶお疲れのご様子ではなかったでしたっけ……？さすがに今晩はこの展開になることは予想しておらず、なぜか脳内のひとりごとが全部敬語になってしまう。 「さっさと寝んぞ」「……ね、寝るなら、寝室にベッドがありますよ」「察しの悪いやっちゃな」 そのままユウジは私を後ろから抱きしめたまま、私の髪にその顔を埋めて息を吸う。彼が帰ってくる前にお風呂に入っておいて良かった。たぶん今ならシャンプーの良い匂いがするだろう。彼の、スウッと息を吸う音が耳元で聞こえて、急に心臓が早鐘を打つ。でもユウジ、待って、帰ってきてからまだ3分くらいしか経ってないよね？！ 「男はな、疲れすぎると性欲高まんねん」「……噂には聞くけどそれ本当なんだね」 ユウジはそんな私に言葉では何も答えずに、代わりに腰に回した左手をそのままパジャマの裾から直に私のおなかに滑らせていく。まだ外から帰ってきたばかりで冷たいその手が、私のお風呂上がりで温まった皮膚に触れるので、一気に鳥肌が立ち、変な声も出た。その声を聴いたユウジの手がピクリと一瞬止まる。やばい、余計に火をつけてしまったかもしれない。そのままユウジは後ろから右腕を私の腰に回したまま、左手をどんどんと上のほうへ滑らせていく。ナイトブラの布越しに彼の骨ばった手が私の左胸を覆うのを感じて、身体が強張る。え、もしかして、本当にこんな煌々と電気の点いたリビングで、お互いに立ったまま、事が始まってしまうの？それは少し抵抗感があった。パジャマの布とナイトブラの布の間で蠢こうとしている彼の左手を、慌ててパジャマの上から強く押さえる。 「ユウジ、やだ」「……何で」「ユウジが疲れて帰ってきて、今性欲が高まってるのも理解したけど。でも今の私はユウジの性処理の道具みたいで嫌」「は」 ユウジはそんな私の言葉が予想外だったのか、腕を緩めたから、私は身体を反転して彼と向き合った。 「別に、そういうことするのが嫌とかじゃないよ。でも今のユウジは、私が好きだからとかじゃなくて、単純にそういうことしたいから求めてるだけのような気がして……」 帰ってきて突然、『疲れすぎると性欲高まんねん』だけ言われて、こんなことになってしまっては。正直相手が私じゃなくても良いんじゃないかなんて思ってしまった。ユウジの好きそうな入浴剤を入れておいたり、ユウジの好きなオクラのお味噌汁を作ったりして、健気に彼の帰りを待っていた少女のような私が、今ではなんだか滑稽に感じる。こんなことを言う私を、彼は面倒くさい女だと思うだろうか。 ユウジと見つめ合っていたのは、実際はたった数秒だったのかもしれないが、随分と長い時間に感じた。彼は、はあ、と呆れたように溜息をついた。その溜息に含まれた感情は一体何だろう。 「前からアホや思っとったけど、お前ほんまにアホやな」「！？」「好きでもない女抱きたい思うほど暇ちゃうわ。……っその、あー、言わせんなやボケ、」 ユウジはさっきまで私の胸をまさに揉もうとしていたとは思えないほど初心な表情で頬を赤くしていく。 「――ここんとこずっと生活すれ違っとったやろ」「……うん」「せやから――」 ここで言葉に詰まってしまうユウジが可愛く思えた。きっと私たちが思っていたことは一緒なのだ。けれど彼はそのシャイな性格上、きっとここから先の感情を言葉にすることはできないだろう。優しい私は、代わりに自分から言葉にしてあげることにした。 「私は寂しかった。だからずっと会いたかった」「……よぉそんな恥ずかしいこと真顔で言えるな、お前」「ユウジがシャイすぎるんだよ」「うっさい。黙れ」 と、ユウジはそんな私の顔を下からのぞき込んで、そのまま、ちゅ、と触れるだけの短いキスをして、私を黙らせた。この男は、言葉を紡ぐのが苦手な代わりに、どうすれば私に行動で気持ちを伝えられるのかを熟知しているように思う。ファーストキスみたいな爽やかなキスが、私の心をすーっと充たしていく。 なぁんだ。やっぱりユウジも、寂しかったんだ。ユウジも私に会いたいって思っていてくれたんだ。 また、私たちは無言で見つめ合って、そのまま、どちらともなく再び唇を重ねた。はむはむと何度かお互いに唇を啄んでいると、ふと隙間からユウジの舌がそろそろと私の口内へ入ってきた。そのままねっとりとユウジは私の口内を舐め上げる。彼以外の男性に抱かれたことはないけれど、それなりに見聞きした話もある中、きっと彼の口づけは世の中の平均より濃厚なほうなのだろう。舌と舌を絡めるという行為は未だに慣れない。どうしても舌根を引っ込めてしまいがちな私にユウジは少し苛ついたのか、私の後頭部にその左手を回して、私たちの顔の距離がさらに近づくように軽く押した。と同時に自分の顔の角度を変えて、舌の角度も変えていく。そのせいで私は酸素を吸うタイミングを失って、頭が真っ白になっていく。ユウジのことしか考えられなくなるこの瞬間が好きだ。だんだんと力が抜けてきた私の背を、ユウジの右手が支えた。そのまま向かい合ってどれくらいキスを続けていただろうか。 「――寝室、行くで」「うん。でも、その前にお味噌汁冷蔵庫に入れないと……」「……この雰囲気で味噌汁の話するか？普通」「でも……たぶん冷蔵庫入れておいたほうがいい気がする」「ホンマにマイペースやな、自分」 そう広い家でもない、すぐ近くにあるキッチンへ急ぎ、お味噌汁の入っている鍋に蓋をして冷蔵庫に入れる。そしてユウジの元に戻ると、彼は私の右手をその左手で取った。家の中を移動するだけなのに手を繋ぐというのもなんだか不思議だけれど、悪い気はしない。むしろ、嬉しい。LDK部分の電気を消して、寝室へ入る。この3日間は一人で占領していたダブルサイズのベッド。ユウジは無言で、横になれ、とでも言いたげな視線を送ってきたので、聞き分けの良い私はそのままベッドに先に横になる。ユウジは寝室の照明の明るさを調整して常夜灯だけにすると、そのまま私の体を覆うように自身の体を重ねた。 ユウジの前髪の先が額に触れてくすぐったい。そのままユウジはもう一度軽く触れるだけのキスをしたかと思うと、不意に右耳にユウジの指が触れる感覚があり、身体がピクリと跳ねた。 「ほんま、自分、耳弱いな」 ユウジはそのまま私の右耳を左手の人差し指でなぞると、次に、その耳に自分の唇を寄せた。耳朶が彼の唇に挟まれる。まるで私の耳を食べるかのように耳輪のほうへユウジは唇を動かして、私を焦らしていく。そして、ついに、彼の舌が私の耳輪をペロリとなぞった。一瞬身体に電流が走ったような感覚になり、声にならない声が出る。そんな私の反応に機嫌を良くしたユウジは、器用に私の右耳をぺろぺろと舐めながら、右手の指で今度は私の左耳をなぞる。右耳は彼の舌、左耳は彼の指で弄ばれ、どんどん私の理性も消えてきた。気持ちいい。でも耳だけじゃ物足りない。そんなとき、右の耳元でユウジがいつもより低い声で息を吹きかけるように呟く。 「――やらしいなぁ。ナイトブラつけとるくせに勃ってるんわかるで」 次の瞬間、ユウジの舌が耳の穴の中を生き物のように蠢いたのと同時に左胸の突起をパジャマの上からきゅっと摘ままれて、自分の口からまるで自分の声ではないような高い声が出てしまった。何度彼と身体を重ねても、この声を聴かれるのは恥ずかしい。ユウジは一旦私の右耳から顔を離すと、無言でじっと私の顔を見下ろすように見つめる。恥ずかしいから、そんなに穴が開くほど見つめないで。でも、その彼の瞳は、高揚したような獣のような瞳でありながら、勘違いでなければ、その奥には愛おしさのようなものも含んでいて。もしかして、私、自分で思っている以上に、愛されてるのかなあ。そんなことを思った矢先、ユウジは私のパジャマのボタンを器用に1つずつ外して、あっという間に前を開いてしまった。そして、彼はそのままナイトブラを押し上げたので、胸が直接外気に触れる。寝室のエアコンはつけていないから、少し寒い。そのせいでさらに胸の先端が反応するのを感じた。 ユウジはそんな私の胸を無言で見下ろした後、そのまま先端に顔を近づけて、ぺろりと舐め上げる。どうしたら私が気持ち良くなるのか知り尽くした彼の舌づかいは、どんどん私から思考を奪っていく。 「……邪魔くさいな。やっぱり脱がすわ」 ユウジはナイトブラを押し上げながら私の胸を攻めていたけれど、面倒になったのかそう言った。ナイトブラは普通のブラと違ってホックなんてないから、頭から抜くしかない。私は仕方なく前を開かされたパジャマから腕を抜いた。ユウジはそれを確認すると、ナイトブラを私の頭から抜いて脱がせてしまった。上半身だけ何もつけていない状態になり、急に羞恥心が押し寄せる。 「あんまり見ないで」「……今更何を言うてんねん、もう数え切れへんくらい俺に抱かれとるくせに」「そ、そんな言い方しないでよ」「こんな濡らしといて、信憑性あれへんわ。ホンマはもっと見てほしいし、弄ってほしいんやろ？」「！」 ショートパンツの布越しに、ユウジの指が触れる。下着を通り越して、ショートパンツまで濡らしてしまっている事実が恥ずかしくて堪らなかった。 「焦らしたろ思たけど、今日は俺が待てへん」「え、ちょっと――やめ、！？」 瞬間、ユウジは一気にショートパンツと下着の隙間から、その指を私の中へと一気に挿入したから、久しぶりの異物感に戸惑った。それでも、自分でも恥ずかしいくらいそこは潤っていて、痛いどころか、その逆だ。ユウジが指を動かす度に、ぐちゅぐちゅと水音が響いて、耳を塞ぎたくなる。ただ、同時にユウジが器用に身体を起こして、指を動かしながらも、彼の舌が再び私の耳をなぞり始めたから、耳を塞ぐことは結局できない。下腹部の圧迫感が増したので、おそらく指の本数が増やされていることは予測できた。本能的に自分のものとは思えないような甘ったるい声が出る。本当はこんな声、出したくないのに、我慢できない。せめてもの反撃と、ユウジの着ているシャツのボタンに指をかけた。よくユウジはいつも器用にボタンを外すなあ。私にはうまくできない。ユウジはそんな私の様子に気づいて、一度耳を侵していくいく舌の動きを止め、指をずるりと引き抜いた。引き抜かれたその刺激ですら気持ちよくて、奥がキュンとしてしまう。 「下手くそ」 ユウジは私をそう罵ると、自分でプチプチとボタンを外し、そのまま脱いだシャツを床へ適当に落とした。そのままインナーに着ていたカットソーも適当に脱ぐと、彼の上半身が露わとなる。細めに見えるのに、脱ぐと意外としっかり筋肉がついているから、いつまで経ってもそのギャップに私は弱い。そのまま彼はカチャカチャとベルトを外し始めたから、そろそろなのかも、と心の準備をする。身体の準備は、呆れるくらいに、整っていた。 ユウジはそのままベルトを外し、彼のほうの準備を整えたあと、私のショートパンツとその下に履いていたショーツを、一気に下ろした。脱がされたその服を、彼はベッド脇のサイドテーブルに畳んで置く。もう私の身体を隠すものは何もなくなってしまった。ユウジはそんな私を、頭のてっぺんからつま先まで舐めるような視線でじっと見つめると、私の両脚の間に身体をねじ込んだ。 アイコンタクトで、彼の次の行動がわかったので、私は反射的に目をつむる。薄い膜越しに、熱く硬くなった彼自身が私の中に入ってくるのがよくわかる。指とは違う圧倒的な質量に一瞬苦しくなるが、私の雌の本能が彼を締め付けていく。 「ちょ、締めすぎや……！」 薄く目を開けるとユウジも苦しそうな顔をしていた。もしかして痛いかな。ただ、その表情は余裕なく恍惚としていたから、きっと彼も私と同じような快感を得ているのだと思い、満足感と、ちょっとだけ反撃できたようで優越感がわく。 「何やねんその笑顔。随分余裕そうやな」「そんなことないよ。ただ、気持ちよさそうにしてるユウジが可愛いなと思って」「――。調子乗ってられるのも今のうちやで」 久しぶりに人間らしい会話ができたと思ったのに、ユウジが奥を一気に突き上げたから、一瞬でまた私は、母音しか発することができなくなってしまった。ユウジはそんな私を見て勝ち誇ったような表情を浮かべ、耳元に唇を寄せる。 「『あ、あ、』やて」「！」「可愛え声出すなあ」 あろうことか、ユウジは私の喘ぎ声を真似してきた。その精度が高いのか低いのかは自分自身では判断できないけれど、きっと前者なのだろう。最低。恥ずかしすぎて死にそうだ。なのに、なぜか身体は反応してしまう。きっと彼とつながっている部分はもうどろどろなのだろう。 ふいに律動が早くなる。私の気持ち良い場所を知っている彼は、そこを目がけて擦りつけていく。あ、そろそろ、くる。中が痙攣し、視界が真っ白になっていく。 「や、ユウジ、もう――」「っ、早よイきや」 そういうユウジも、そろそろ限界だろう。中でビクビクと彼自身が動いたのを感じた。ほとんど同時に達することができるなんて、幸せなことだ。お互いに達したあともしばらく体勢をそのままに、余韻に浸る。お互いに素直に言葉にはできないけれど、思っていることは一緒なのだと。身体が繋がることでコミュニケーションが取れることもある。 やっと視界が定まってきた。ユウジが私を見下ろしている。 「……好きだよ、ユウジ」 いつもは素直に言葉にするのは恥ずかしいけれど、今なら言えるような気がして。ユウジはそんな私の言葉に一瞬目を見開いて、そして珍しくふと微笑んだかと思うと、私の髪をかきあげて、額にキスを落とした。 Fin.2022.3.21title by チュイル

保護中: やさしくないひと