cheer for you

「さぁ、食べよか〜!ケンヤさん特製・チゲ鍋やで!」

 そう謙也は言うけれど、何となくテンションの上がりきらない私は「うん」と小声で返事をすることしかできなかった。謙也はそんな私を責めずに、逆に優しい表情で、さっきとは違う柔らかな声色で問う。

「……どないしたん? 何かあった?」
「……昨日仕事で大失敗しちゃって。いろんな人に迷惑かけて……なんかずっと引きずっちゃってて。せっかく今日は土曜で、謙也の家に来てるのに、ごめんね」

 チゲ鍋をローテーブルの上の鍋敷きの上に乗せると、謙也は私の隣に座って、そのまま私の顔を覗き込む。

「なるほど、浮かない顔しとったんはそういうことか」
「うん」
「俺が何かしてもうたんかとホンマはちょお気にしとったからそこはホッとしたわ」
「え、ごめん、謙也のせいじゃないよ」

 慌てて否定すると、謙也は徐ろに私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。えー?!せっかくおうちデートと思って髪のセットも頑張ったのに!でも謙也はそんなの気にせずに笑顔で言う。

「失敗するっちゅうのは、それだけチャレンジしてる証拠や!えらいえらい!」
「そうかな……」
「自分のできる範囲のことしかしてへんかったら、失敗もせえへんけど、成長せえへん。自分の枠超えたことするからこそ、失敗するんやろ」

 確かにそうかもしれない。そう思ったら、昨日大失敗したのは、ある意味、チャレンジした証拠だったのかな。

「……そうかも。ありがと、謙也」

 自然と顔が綻ぶ。そんな私を見た謙也は「おん!やっぱり自分、笑顔の方がええで」と私の背中をバンッと音が出るくらい強めに叩いた。少し背中は痛いけれど、こうしてなんだかんだ心の機微をすぐに読み取って欲しい言葉をくれるこの恋人が、私は大好きだ。

Fin.
2022.10.19