年越し

 中学生の立場で年越しを家族以外と過ごすのは至難の業だ。麻衣は父親の実家に帰るそうで、大阪にはいない。

『年越しそば食べたよ』

 そんなメッセージとともに、そばの写真が送られてきた。そばも良いが、どちらかというと俺は、そのそばを食べている彼女の顔の方が見たい。

『うまそうやん』
『おいしかった!蔵は何してるの?』
『ウチもそば食べ終わって紅白見とる』
『へー。白石家は紅白なんだ』
『俺はあんま興味ないねんけど友香里が見たいらしいわ』
『私、この後ジャ○ーズのカウコン見るよ』
『浮気かいな』
『大丈夫、蔵がいちばんかっこいいから』
『思ってないやろ』

 そんなやりとりをしていたら、ふと顔が緩んでいたらしい。「クーちゃん、彼女とラブラブそうやね」と姉が話しかけてきて、思わず画面を見られないようにスマホを裏返した。――さっさと大人になりたい。そしたら、誰にも邪魔されずに彼女と二人で年を越せるようになるのだろう。
 落ち着いてスマホが見られるように、一旦自分の部屋へ移動する。そして、改めて彼女とのトーク画面を開いた瞬間、俺は部屋のドアに背中をもたれかけながらしゃがみ込み、頭を抱えた。

『思ってるよ。今年1年ありがとう』

 そんなメッセージとともに、だいすき、なんて女の子らしいスタンプが送られてきている。
 ――ほんまに俺の彼女可愛いすぎひん?めっちゃスクショ撮って自慢したいわ。いや、実際はせえへんけど。こんなん、めっちゃ声聴きたなるやん。
 この後、俺が思わず通話ボタンを押してしまい、彼女が「えっ、蔵?!」と驚いた声で電話に出るまで、あと30秒。

Fin.
2021.12.31