4月14日の帰り道

 ひとしきり部室で誕生日を祝ってもらい、十五歳の誕生日、ホンマにええ日やったなぁ、なんてしみじみしていたところに、財前が言う。

「ほな、俺らこの後片付けるんで白石部長は、早よ帰ってください」
「え、何で……!? そこはみんな一緒に帰ってくれるんとちゃうん」
「主役に片づけさせられるかいな。早よ帰りや、白石! ほな、また明日な!」
「そんな、ケンヤまで……」

 え、ホンマ、何でみんなそんな一気にドライなん!? さっきまで俺の誕生日全力で祝ってくれてたやん!? あまりの手のひら返しに混乱している中、小石川が言う。

「白石。俺らからのメインの誕生日プレゼントはこれからや」
「は……?」
「ええから、早よ校門行き」

 メインの誕生日プレゼント、って……さっきまであんなに祝ってもろてこれ以上に何があるんや? 混乱する頭で、仕方なく制服に着替えて、テニスバッグを背負う。

「……ほな、また明日」
「おん。健闘を祈る!」

 健闘を祈る、って、ホンマに何やねん!?この後俺に何が起こるんや……?

***

 要領を得ぬまま、校門にたどり着く。

「白石くん」

 そう話しかけられた瞬間、俺は全てを理解した。校門に立っていたのは、去年同じクラスだった支倉さんだった。

「こんな時間まで残ってたんや」
「小春ちゃんに『今日六時に校門におって』って頼まれてん。何でって聞いたら『その時間に蔵リンが来るはずやから、蔵リンに聞いたらわかるで』って」
「……そういうことか」
「で、私は何で六時に校門におる必要があったんやろ?」

 そういう彼女に、申し訳なさを感じた。
 突然だが、俺は去年同じクラスだった彼女に片想いをしていた。そしてその気持ちは、どうやら部活の同期たち(+財前)には筒抜けだったらしい。
 気を利かせたアイツらが、俺が彼女と二人で下校できるようにしたのだろう。ただ、何も知らない彼女を巻き込んでしまった。しかもこんな遅い時間まで学校に残させてしまうという。

「……スマン。俺のせいやわ」
「白石くんのせい?」
「とりあえず、もう遅い時間やし、送らせてな」
「え!? ええよええよ、ウチ遠いし」
「ホンマに嫌やったらやめとくけど、遠慮してるだけやったら遠慮せんでええ。一人で帰すん心配やねん」

 そう言うと、彼女は「それやったら、お言葉に甘えて」と少しだけ耳を赤くした。

***

「まだ四月に入って二週間やけど、白石くんと話すん、めっちゃ久しぶりな感じする」
「せやな。今年はクラス分かれてもうたもんな」
「今のクラスも今んとこ楽しそうなメンバーやけど、やっぱりクラスに白石くんおらんと寂しいなぁ」

 隣を歩く彼女のそんな何気ない言葉が嬉しい。

「それは俺も一緒や。支倉さんおらんと寂しいわ」
「ふふ。またまたぁ。そんなん言われても何も出えへんで?」
「ホンマやって」

 そう言うと彼女は照れたのか、さっきまでこちらを見上げていたのに、俯いてしまった。こういう一つ一つの仕草が可愛い。アイツらの半ば無理矢理なサプライズにも、今は感謝や。

「で、結局、さっき言うてた『白石くんのせい』ってどういうこと?」
「っあー。アレなぁ……」

 話題が元に戻り、言葉に詰まる。まさか「俺がキミを好きで、それを知ってるうちの部員たちが、俺の誕生日に俺とキミを二人で下校させるサプライズをしました」なんて本当のことを話すわけにもいかない。

「……ごめん、言いにくいんやったら無理せんでええよ、私変なこと聞いたよな」
「いやいや! 支倉さんが謝る必要は一個もあらへんよ」
「白石くんが慌てるん珍しいなぁ。初めて見たかも」
「何やカッコ悪いとこ見せてもうたな……」
「ううん。逆に嬉しいで。みんなが知らん白石くん見れたーって」

 そう隣でニコニコ笑う彼女が可愛い。春休みを挟み、クラスも変わり、久しぶりにこうやって近い距離で話せることが、俺も嬉しい。
 そのまま二人で他愛のない話をしていたら、あっという間に徒歩通学の彼女の家の近所に着いた。家の前まで送ろうかとも思ったが、彼女が「親に見られたら、その、アレやからさぁ……」なんて顔を赤くするので、「ほんなら、近くの角までな」と曲がり角までにすることにした。――少しは俺、意識されとんのかな。

「ほんなら、白石くん、また明日」
「ん。また明日な」
「……あと、」
「?」
「お誕生日、おめでとう」

 え。

「今日、俺の誕生日って……知っててくれたんや」

 え、やばい、めっちゃ嬉しいねんけど。好きな子に祝ってもらえるとか最高やん。と思っていた俺に、さらに彼女は、消え入りそうな声で、ただ、とんでもない衝撃の台詞を投下した。

「……す、好きな人の、誕生日やから」
「へ」
「ご、ごめん、伝えたかっただけやから! テニスが恋人やって知ってるから! テニス頑張ってな! ほな、おやすみなさい」

 そう捲し立てて彼女は逃げるようにその場から走り去ろうとする。が、普段鍛えていて良かった、俺はすぐに追いつき、その彼女の腕を捕らえた。

「……振られるのわかっててん、離して」
「いや、何もわかってへん」
「?」

 すると、彼女は困惑した表情で振り返りながら、俺の顔を見上げる。ホンマに何にもわかってへんなぁ。――俺もキミが好きやねん。

Fin.
2025.4.14
白石くんお誕生日おめでとう~~~