「俺がカッコ良く見える?当たり前や、自分俺のこと好きやろ?」

 周りの友達はみんな白石のことがかっこいいとかいうけど、私にはさっぱり理解できない。きっとみんな、白石のうわべしか知らないのだろう。突然エクスタシー!なんて叫んだり、目をキラキラさせて毒草の話をしたり、毒手なんてくだらない嘘で金ちゃんを宥めたりする白石を見ていると、正直、私には白石が、ただの変な人にしか思えない。もちろん、テニスに対しても勉強に対しても努力家なところはすごく尊敬しているけれど、たぶんかっこいいっていうのはもっと違う人に対して使う言葉だと思う。ほら、例えば、スラダンの流川とか。――いや、流川は私が個人的に好きなだけやけどね!

 けれど、そんな白石も、テニスをしてるときだけはかっこいいことを認めざるをえない。もちろんテニスをがんばっている部員はみんなそれぞれかっこいい。基本的に努力している人はみんなかっこよく見えてしまうのが私の目だった。だけど、そんな中でも、どうして白石ばかりを目で追ってしまうのか自分でも疑問だった。
 なんで、白石ばっかり見てまうんやろ。
 なんで、白石を見てるときだけ、どきどきするんやろ。
 なんで、白石だけ特別に見えてまうんやろ。

「……白石は流川やないのに」
「はは。何やねんそれ」

 部活が終わった後、部室の机に頬杖をつきながらつぶやくと、白石は軽く笑った。

「……友達がな、あんたのこと、『かっこいい』言うねん」
「へえ、そうなん? 友達にお礼言うといてや」
「うん。私個人的には、白石のどこがかっこいいんやろとか思っててんけどな」
「ちょ。それ、本人に向かって言う台詞やないやろ」
「ごめん。……せやけど、やっぱり、テニスしてるときだけは例外やんな」

 そう言うと、白石は少しだけ驚いたような顔をした。けれどその顔はすぐに何かを企んでいるような不敵な笑みに変わる。

「せやから最近、部活中、俺のこと見とったんか?」
「え゛?」
「人の視線っちゅーのは意外に感じるもんやで」

 え、嘘や……!お願いやから嘘や言うて!こっそり見とったはずやのにめっちゃ恥ずかしい……!
 声には出さなかったが、心の中でそう叫ぶ。白石はそんな私を見つめながら、低い声で呟く。

「――俺がカッコ良く見える?」

 悔しいけれど、テニスをしているときの白石に関しては否定できない。そして、今、目の前にいる白石に関しても。なんでなん。なんで私も、こないどきどきせなならんの。
 熱くなった私の頬に、白石の毒手が触れる。けれど、毒手だなんてやっぱり嘘だった。こんなやさしく触れる手に毒なんかあったものではない。首を縦に振るのはやっぱりはずかしくて、肯定の意味でゆっくり瞬きをした私に、白石は微笑む。

「当たり前や、自分俺のこと好きやろ?」

Fin.
2010.5.15
title by 白石祭り / Special Thanks! 村井さん