「だいぶ積もってるね〜」
「そうだね。絨毯みたいだ」
今日は、外の掃除当番。秋が深くなってきて、学校の周りは落ち葉だらけ。掃除の班は四人いるけれど、あまりの落ち葉の多さに、私たちの班は二手に分かれて掃除をすることにした。そして、私がペアになったのは、隣の席でもある不二くんだ。
不二くんはそのかっこいいルックスと、天才的なテニスの腕と、優しくて穏やかな性格で、学校中から人気がある。ただ、そんな一見王子様みたいな不二くんも、実は味覚がちょっと(いや、だいぶ?)おかしかったり、ブラコンを疑うレベルで弟くんを大切にしていたり、人をからかうのが好きだったり。そんな人間らしい面もあることを、私は知っていて。そして、不二くんのそんな王子様っぽくない部分が、いいな、なんて思ってたりして。
「それじゃ、キミはほうきでいいかい? 僕はちりとりを担当するよ」
「うん」
そんな会話をしながら、私はほうきで落ち葉を集めていく。色とりどりの葉に、秋を感じる。
「秋だねえ」
「フフ。そうだね」
「不二くんは、スポーツの秋って感じ?」
「確かに。来週からU-17の合宿もあるしね」
「そっか……来週から不二くんいないのかぁ……」
「あれ、さびしがってくれてる? 嬉しいな」
さびしいのは事実だけれど、そう改めて本人から言われるとなんだか恥ずかしい。そんな私の顔を見て、不二くんは「可愛いね」とクスクスと笑っている。可愛いとか、そんな気軽に言っちゃだめだよ。さらに体温が上がっていくのを感じる。
「で、キミは? 食欲の秋?」
「っ〜! 確かにそうだけど、レディに対して失礼な!」
「フフ。だってキミ、昼休み、いつも女の子と秋限定のお菓子ばかり食べてるじゃない」
「見てたの!?」
「うん。僕には分けてくれないんだ?」
「だって不二くん、辛党でしょ?」
「確かに辛いものは好きだけど、甘いものも食べれるよ」
「……じゃ、合宿でいなくなっちゃう前に、餞別に、おすすめの秋のお菓子渡すね」
口を動かしながらも、手もしっかり動かしているので、私たちの目の前には落ち葉の山ができていた。不二くんのちりとりにも落ち葉がたくさんだ。ある程度集まった落ち葉を、校舎の隅で二人でゴミ袋に移していた、その時。
ヒュウウウっとつむじ風が吹いて、せっかくの落ち葉の山が崩れ、色とりどりの葉が舞い上がる。そんな光景の美しさに一瞬目を奪われたけれど、すぐに本来の目的を思い出した。もう、せっかくここまで掃除したのに……! 崩れた部分は、また、やり直しだ。
「っ、すごい風だったね」
「うん。落ち葉の山、崩れちゃった……」
「キミの髪にも落ち葉がついてちゃってるよ」
「えっ、どこ?」
「取ってあげるから、動かないで」
そのまま不二くんはいつもの微笑みを浮かべながら、私の身長に合わせて少し屈む。そしてその右手がふわりと私の左耳の上あたりの何かを捉えた。へえ、こんなところに落ち葉がついてたんだ。なんて思ったのも束の間――
ちゅ。
と、左頬に柔らかな感触があって、一瞬頭が真っ白になる。えっ、ちょ、待っ、えっ!? ちゅ、って何!?
「ふふふふふ不二くんんんんん!?」
「……っフフ、本当に可愛い反応するんだから」
「え、だって、今、ほっぺに、き、キキ、キス……」
「いいじゃない、恋人同士なんだから」
「だめ! 誰かに見られたら……」
「……そんなに僕と付き合ってること、隠したい?」
不二くんは少し悲しそうな顔をしてこちらを覗き込んでくるので良心が痛む。だって、不二くんと付き合ってるなんてバレたら、女の子の嫉妬が怖すぎる。例えバレたとて、慎ましやかに生活していれば平和かもしれないけれど、こんな人前でキスなんてしてしまった日には、次の日から人権が無くなりそうだ。
「僕は、見せびらかしたいんだけどな。こんな可愛いキミが僕の恋人だって」
「!」
「……ただ、もう少しキミの心の準備が必要そうだな」
無理強いして、それなら別れるなんて言われても困るからね。なんて、不二くんはまた冗談ぽく言っている。
「……不二くんが合宿から戻ってくる頃までには、心の準備しておくよ」
「フフ。戻ってくるのが今から楽しみだな」
「うん。……しばらく離れちゃうのはさみしいけど、待ってる」
そう伝えると、不二くんは徐に言う。
「……今日は手を繋いで帰ろうか」
いつもなら誰かに私たちの関係がバレそうで断ってしまうところだけど、でも今日は。こくりと縦に首を振ると、目の前の不二くんは嬉しそうに笑っていた。
Fin.
2023.11.28