四月上旬のとある夜、不意に侑士から通知が来た。写真みたいやけど、何やろ。メッセージアプリを開き、その写真を見た瞬間、俺は驚きすぎて口から心臓が飛び出るかと思った。え!? えええ!? これ、あの時の子やん!? 気づいたら俺は侑士に電話をかけていた。
「侑士! どないなっとんねん、この写真っ……」
『びっくりしたみたいやなあ、謙也』
「何で、お前がこの子の写真持ってるん!? つか、特定したん!?」
『お前の一目惚れの相手、この子やろ』
「……そうや。けど、え、ホンマに、マジで、何で!?」
『クラスメイトやねん、氷帝の。よう写真見てみ。氷帝の制服着てるやろ』
一度スマホを耳から離し、言われた通りに写真を見返すと、確かに彼女は氷帝の制服を着ている。制服姿も清楚な印象で、やっぱり可愛い、なんて思ってしまった。
「……いや、でもそんなできすぎな話あるか?」
『そんなん、俺が聞きたいわ。彼女のほうから訊ねてきたんやで。大阪で道迷ったときに、学ランでテニスバッグ背負った同い年の男の子に助けてもろたって。せやけど名前も連絡先知らんから、大阪出身でテニス部の俺に心当たりないかって。彼女、なかなかの行動派やろ』
「え、ほんまに? 向こうが俺んこと探してくれとったん?」
『せや。意外と自分ら両想いなんちゃう? お互いに一目惚れしとるっちゅうことやん』
そんな侑士の言葉に、一気に身体中が熱くなった。両想い? お互いに一目惚れ? まさか彼女も俺に対してそんな好意的な気持ちでいてくれたなんて思っていなかった。それがほんまやとしたら――もっと仲良うなりたいねんけど。
『で。謙也は、彼女の連絡先、知りたいん?』
「も、勿論や!」
『……ほな、お前から彼女に連絡したってや。連絡先伝えてええって許可はもろてる。ちなみに彼女、氷帝でも結構人気ある子やで。頑張りや』
侑士はそのまま電話を切ると、すぐにトークルームに彼女の連絡先を送ってきた。そこで初めて知る、彼女の名前。
――支倉麻衣。
名前まで可愛いとか何なん。いや、俺がすでに好きになってもうてるから、名前まで可愛く見えてくるんか?
*
まさか大阪で偶然出会った男の子が、クラスメイトの忍足くんのイトコだったとは。忍足謙也くん――どちらも「忍足くん」なので、便宜的に謙也くんと呼ばせてもらうけれど。忍足くんから謙也くんに、私の連絡先を伝えてもらうことになった。謙也くんがもし私とまた話したいと思ってくれていたら、という枕詞つきではあるけれど、今夜、謙也くんから連絡が来ることになっている。緊張して夕ごはんの食欲もなくて、夜、部屋で明日の予習をしていても、いまいち勉強の内容が頭に入らない。そんなときだ。スマホが震えた。通知を見て、心臓が湧き立つ。
『忍足謙也です。侑士から連絡先聞きました。ちゃんとメッセージ届いとる?』
友だちではないユーザーからのメッセージだけれど、間違いなく謙也くんだ……! こちら側で友だち登録をして、私も謙也くんに返信をする。
『無事届きました! 支倉麻衣です。よろしくお願いします』
すると、その返信にはすぐに既読がついた。わ。わ。今、私、リアルタイムであのときの男の子――謙也くんに再会してる。もう、二度と会えないかと思っていたのに。
『いきなりやけど、通話してもいい?』
『うん、いいよ!』
そんな返信をすると、すぐに謙也くんからの着信が。慌てて電話をとると、聞こえてきたその第一声が――。
『……もしもし?』
その瞬間、なんだか感動で胸が震えた。確かに、あの時の男の子の声だった。やっぱりあの時道案内をしてくれた男の子は、忍足くんのイトコの謙也くんだったんだ。
「もしもし、謙也くん……?」
『はじめまして、やないな、二度目まして?』
「ふふ。そうだね、二度目ましてだね」
『まさか侑士のクラスメイトやとは思わへんかったわ。びっくりしたで』
「私もまさか忍足くんのイトコとは思わなかったよ。あの時は助けてくれてありがとう」
『大したことしてへんて。大阪は楽しめたん?』
「うん。友達にも会えたし、謙也くんが教えてくれたたこ焼きも食べたよ」
こうやって会話をしていると、まるで話すのが二回目とは思えないほどスムーズに会話が続いていく。謙也くんと話すのがとても楽しくて。だから、会話が盛り上がってきた頃、思わずこんなことを言ってしまったのだ。
「もう二度と会えないと思ってたから、またお話できて嬉しい」
すると、電話の向こうの謙也くんは急に『っあー、その、』と歯切れ悪くなる。えっ、変なこと言っちゃったかな。でも、謙也くんにとっては、偶然道案内をした女子に、ある意味勝手にストーカーされている状態なのだ。ちょっとここまでくると重いのかもしれない。急に不安が襲うなか、彼は言う。
『――実は俺も、また話したい思っててんけど、連絡先も名前も知らんし、もう絶対無理やって諦めとった。せやから、俺もめっちゃ嬉しい。おおきに、麻衣ちゃん』
そんな言葉に、心臓が、とくん、と動く。謙也くんも、私と同じような気持ちでいてくれたんだ。謙也くんとはまだ少ししか話したことはないけれど、リップサービスでこんなこと言う男の子ではないというのは直感的にわかる。どうしよう、すごく嬉しくて、顔が緩む。
『……また、連絡してもええか?』
「もちろん。私もまた謙也くんに連絡してもいい……?」
『おん! メッセージでも通話でも何でも大歓迎や!』
電話の向こうから聞こえた謙也くんの声は、すごく明るくて、声だけでもあの弾けるような笑顔が浮かんできた。十分程度しか一緒に過ごしてはいないけれど。今だって十分程度しか通話していないけれど。でも、この短い時間に、謙也くんの明るさと優しさに、どんどん惹かれていく自分がいる。
再会できたのは、きっと奇跡。この計り知れないほどの幸運に感謝した。
to be continued…
2023.4.10