悲しくて辛いことがあった。今日の国語の授業で、人間万事塞翁が馬、禍福は糾える縄の如し、そう習ったけれど、ほんとにそうなのかな。
 放課後、なんとなく家に帰りたくなくて、空き教室でぼーっとしていた。空き教室だし、きっと誰も来ない。来たところで勉強道具を机の上に広げて、自習しているふりをすれば、怒られることもないだろう。
 そんなとき、ふと。本当にふと。気配を感じて振り返ったのだ。するとそこには。

「◯△□◎×〜〜〜?!?!」
「随分と古典的な驚き方じゃのう」

 仁王くんがいた。びっくりした。なんで!? 忍者!?

「お前さん、隙が多すぎナリ」

 仁王くんは楽しそうに笑うと、そのまま後ろの席から立ち上がって、次は私の隣の席に座る。

「何でここに……?」
「お前さん、何かあったじゃろ」

 会話が噛み合わない。まぁ、仁王くんとの会話はいつもこんな感じなので慣れている。

「何もないよ」
「嘘」
「何で」
「俺に嘘をつけると思ったんが間違いじゃ」
「……そうだね。うん、確かに今落ち込んでる」
「素直でよろしい」

 右隣の仁王くんはそう言うと、グーにした左手を出してきた。

「じゃんけん」
「じゃんけん? じゃ、パー」

 私が仁王くんに勝つようにパーを出したら、仁王くんのグーの手は開かれて、そこから私のパーの手のひら目掛けて、チョコレートが落ちてくる。

「わ、チョコ」
「やる」
「いいの?」

 仁王くんは無言で頷く。何しにここに来たのかよくわからないけど、もしかして、私を励ましに来てくれたのかな。そう思ったら、胸の奥がじんわりとあたたまる感じがした。だから仁王くん、もう少しだけ、隣にいて。

Fin.
2023.1.16