「なぁ、毎晩誰と何話してるん?」
金曜の夜、訝しげな顔で訊ねてくる同棲中の彼氏・蔵ノ介に、本当のことを言おうか少し悩む。人一倍健康に気を配っている彼は基本的に早寝だ。だから、彼が寝た後、リビングでこっそりフォロワーさんとの会話を1,2時間程度楽しんでいたりするのだけど、どうやらそれは彼にバレていたらしい。
「浮気とか疑ってんのとちゃうけど……やっぱりちょお気になってもうて」
「ま、まさか浮気なんてするわけないよ。Twitterのフォロワーさんたちと話してるだけだよ」
私がオタクであることは、すでに蔵ノ介にはバレている。というか付き合う前からそれは知られていて、その上で彼が私を好きだと言ってくれた。だから今更隠すことでもないのだけれど、フォロワーさんたちと話している内容自体は、恥ずかしくてあまり聞かれたくない。だって、推しのどこがかわいいとか、そんな話ばっかりなのだから。
「蔵はあんまりSNSとかしないから知らないかもしれないけど、今はフォロワーさんとグループ通話みたいなのできたりするんだよ」
「……そうなんや。で、毎晩のように『推し』の話してるん?」
「……う、うん」
そう言うと蔵は、少し拗ねたような表情をする。あれ、こんな顔するの珍しいな。(ちなみに『推し』という言葉の定義は私が彼に随分前に教え込んだ。)
「――浮気やないっちゅーのはわかっとったけど、毎晩それやと俺はちょお寂しいねんけど」
「えっ?」
「……確かに平日は普通に早寝しとる日がほとんどやけど。たまには――期待してベッドで待ってる日もあんねんで」
えっ。えっ。そうだったの?!それなら直接言ってくれればよかったのに。
――なんてそんな私の内心はすぐに見抜かれる。蔵は私の顔を見ながら言葉を続ける。
「お互い平日は仕事やから、あんまり俺から誘うのもどうかと思っててんけど。何も言わへんかったら、毎日フォロワーさんと推しの話しとるんやろ」
「……ご、ごめんね。私も、蔵は平日は早寝したいのかなと思って」
「せやな。俺もちゃんと素直に言わへんかったからアカンかったな」
すると、後ろから蔵の腕が回ってきた。背中から抱きしめられた形になると、もう付き合ってから結構な月日が経つというのに、やっぱり心臓の動きが速くなる。そのまま彼は私の首元に顔を埋めると、言う。
「今夜はフォロワーさんやのうて、俺と過ごしてや」
なかなか彼からこんな可愛いわがままを聞けるのは珍しい。思わず頬が緩んでしまう。首元にある彼の頭に右手を伸ばして、そのままくしゃくしゃと彼の髪を撫でる。
「ふふ。蔵、可愛いとこあるね」
「――ま、余裕でいられるんは今だけやで。俺も今夜はいっぱい可愛え姿見せてもらわな」
そんな言葉とともに、彼は私の背中と膝の裏に腕を差し込んで、ひょいとそのまま身体を抱き上げる。さらっととんでもないセリフを言われたような気がして、どきどきしてきた。――でも、こうやって私をいつも大切に想って求めてくれる蔵のことが好きだな。
そんなことを考えているうちに、気づいたらお姫様抱っこで寝室のベッドの上まで運ばれてしまって、そのまま蔵の身体も私に覆いかぶさってきたので、そのままそっと瞳を閉じて委ねることにした。
Fin.
2022.1.9