結局カラオケを出たのは19時過ぎだった。今日は土曜日で、同期の男子はこのまま半同棲中の彼女の家に帰るということで品川駅で内回りの山手線に乗っていった。忍足さんと私は、外回りの山手線に乗る。新宿までは帰り道がいっしょだ。
山手線内は通勤電車並みに混んでいて、忍足さんとどうしても身体が触れるような形になってしまう。さっきの白石さんの発言も相まって、なんとなく忍足さんの顔が見れなかった。
優しくて、仕事に対して誠実で、でもどこか可愛いところもあって。よくよく考えてみれば忍足さんは異性としても魅力があった。──でも、私が、忍足さんを好き?
「渋谷からはさらに混むなぁ。大丈夫か?」
「は、はい……」
「ホンマか?何やずっと俯いとるし具合悪いんちゃうか」
「いや、あの、ちょっと飲みすぎただけだと思います、たぶん」
「そーか?それならええけど。新宿までもう少しやし頑張りや」
何も知らない忍足さんはいつもの明るい調子で私を励ます。そして、山手線はやっと新宿にたどり着いた。ホームに出て、久しぶりに新鮮な空気を吸う。でもなんだか気持ち悪い。もしかして本当にお酒飲みすぎたかな。何せ昼間の披露宴から飲み続けているし。
「お疲れさん。って、ほんま顔色悪いな…1人で帰れへんやろ、絶対」
「ちょっと飲みすぎたかもしれないですけど、新宿からならもう近いので大丈夫ですよ。最悪タクシー乗りますね」
「……家まで送ってくわ」
「いやいや、大丈夫で──」
大丈夫です、と言いたかったのに、思わず身体がふらつくのと、突然胃から逆流してくるものがありその場にうずくまった。咄嗟に忍足さんは私が持っていたブーケが入ったビニール袋から、ブーケを取り出して、袋を渡す。間一髪でホームを汚すことだけは避けられたけれど、とっても情けないところを見られてしまって、思わず涙腺が緩む。
「……っ、すみません、汚いとこ見せちゃって」
「俺は大丈夫や」
忍足さんはいっしょにその場にしゃがんで、私の背中を撫でる。逆流して焼けるように熱くなった食道も、その大きな手で背中を撫でられると少し落ち着いたように感じた。
「……一旦落ち着いとる間に移動しよな」
「は、はい」
「向かいのホーム、中央線乗れるか」
「?」
「土曜の夜、タクシー並ぶ方が時間かかるやろ。あと少しだけ辛抱やで」
そして乗車して数駅経ったところで、忍足さんは「降りるで」と私に声をかけた。
「──ここは?」
「俺の最寄駅。よう考えたら支倉の家の場所知らんし、支倉休ませるんやったら俺んち向かった方が早い思ったんや。でもその前にまずトイレ寄っとこか」
「……すみません」
駅のトイレでさっきの袋の中身などを処理して、そして軽く口を濯ぐ。さっきよりはまだマシだが、完全に悪酔いしてしまったようだ。気づけば頭も痛いし、胃もまだ熱い。ヘロヘロの私を見て、忍足さんはため息をつく。
「……ほんまに世話の焼ける後輩やな」
「……本当にすみません」
「駅からはすぐやから。ふらつくんやったら俺の腕でもつかまっとき」
そう言われて素直に忍足さんの腕にぎゅっと抱きつくと、スーツのジャケット越しに引き締まった筋肉のついた腕の存在を感じて、余計にこの人は男の人なのだと意識してしまった。
to be continued…