第7話 2年目・9月(1)

 なんと、今日は結婚式に来ていた。もちろん私の式ではない。私が新入社員のときにOJT担当を務めてくれた、今は4年目の先輩の結婚式だ。先輩は誰と付き合っているかはずっと教えてくれなかったけれど、蓋を開けてみれば、違う支店の7年目の先輩だった。そんなわけでゲストも親族以外ほとんど銀行関係者のようだ。披露宴会場では支店長と営業課の次長、課長が来賓席に座っている。その斜め後ろのテーブルに私たち支店の若手が固められていた。

「それにしても式のブーケトスで見事キャッチするなんて、やるじゃん支倉」
「いや、キャッチしたのはいいけど相手いないし……あはは」
「えっお前、彼氏と別れたの?!聞いてねぇけど」
「あーうん、結構前だよ。もう半年経ってる」

 隣の席の同期の男子とそんな話をしていると急に会場のライトが落ちて、スクリーンにオープニングムービーが映し出され、私たちの会話は中断された。

 先輩は、すっごく綺麗だった。白いウエディングドレスに身を包まれた先輩はとても幸せそうな笑顔を浮かべていて、その隣に立っている旦那さんもとっても優しそうな笑顔で先輩を見守っていて、幸せのお裾分けってこういうことなのか、と思う。なんとなく私までぽーっとしてしまった。
 挙式披露宴は午前からお昼にかけてからだったので、おひらきとなったのは14時半ごろだ。そして2次会はナシとのこと。

「どうする?この後、俺らで2次会でもするか?」
「お、良いっすね、謙也さん!」
「ほなどっか探すか。品川で昼から飲めるとこ。白石はどないする?」
「んー、18時くらいまでやったら付き合うわ」

 そんな流れで、支店の若手メンバー有志で飲みに行くことになった。ただでさえ支店の若手で総合職となると女子が少ないのに、私がOJT担当をしている後輩ちゃんは、この後彼氏とデートだそうで、帰ってしまった。そんなわけで、忍足さん・白石さん・同期の男子・私という残された4人で、カラオケに行くことになった。そして話題は私のブーケの話に。

「へぇ、支倉さん、彼氏おらへんのや。可愛いのに」
「こら白石!お前ホンマにサラッとそういうこと言うのやめや」
「俺、福岡の彼氏とてっきり結婚すんのかと思ってた」
「さっきも言ったけど半年前に振られちゃってるからなぁ、ブーケもらったはいいけど」

 福岡の彼氏、いや、もう元彼だけど。そんな人もいたなぁという懐かしい気持ちになる。

「福岡っちゅうことは遠距離やったんか。大変やったやろ。何や恋愛ネタでいじってもうてすまんな」
「いえ、大丈夫です。もう過去のことにできてるので!」

 白石さんは本当に申し訳なさそうな顔をしていて、なんて良い人なんだろう、と思う。イケメンだし仕事もできるし性格も良いし完璧だなぁ。

「でも謙也さんは全然驚いたふうじゃないってことは、支倉が彼氏と別れたこと知ってたんすね」
「知っとったといえば知っとったけど。それより自分はどないやねん年上の彼女と」
「えっ、俺っすか?最近結婚のプレッシャーがすごくて……」

 そして、さらっと話題を変えてくれた忍足さんにも感謝だ。もう元彼のことは全く引きずっていないけれど、あの時話を聞いて支えてくれたのは忍足さんだったな、と思い出す。忍足さんと同期の男子が話しているのを遠巻きに見ていると、白石さんから話しかけられた。

「謙也、いい奴やろ」
「え?は、はい」
「自慢の親友やねん。なぁ、支倉さん、今は好きな人とかおるん?」
「え?!い、いないですが!」
「ふぅん、そうなんや」

 何かを含んだように白石さんはそう言う。

「俺、支倉さんの好きな人、知ってるで。支倉さん自身は気づいてへんかもしれんけど」
「は?!」
「ほな、そろそろ18時や。先に帰るな」
「えっ、ちょ、白石さん?!」

 意味深なセリフを残して白石さんは帰ってしまった。でも、話の流れを整理すると……もしかして、白石さんは、私が忍足さんを好きになってるってことを言いたかったのだろうか。
 いやいや、先輩として尊敬はしているけれど、異性としてなんて考えたことない──はずなのに、なんだか胸がドキドキしてきた。

to be continued…