第6話 再会

 というわけで、ついに来てしまった、全国大会の会場。わかってはいたけれどやっぱり会場は広くて、迷子になってしまいそうだった。
 きっと今、青学のみんなは立海の試合を食い入るように見ているのだろう。それをいいことに、私はみんなの輪からこっそり抜け出して、四天宝寺中を探していた。
 ――確かこっちのほうのコートでもうちょっとしたら四天宝寺の試合がはじまるはずだから……。
 会場の地図とにらめっこしながらたどり着いたそのコートには、やたら派手なジャージの人たちがいた。黄色に緑。うちの学校のジャージもまるでフランス国旗みたいだけど、この学校はまるでブラジルみたい。そんなアホなことを考えながら、ふとそのジャージの背中の文字を眺める。何なに、四……天……宝……寺……って、四天宝寺?!この人たち?!
 すると、その私が見つめていたジャージを着ている黒髪の男の子が、怪訝そうな顔をして振り向いた。

「……何、さっきからこっち見てるん」

 振り返った男の子は、見た感じ1年生で年下といったところだけれど、とても不機嫌そうな顔をしている上に、よく見てみると彼の耳にはピアスが左右合わせて5個もついていて、私は一気に冷や汗をかいた。もしかしてこの人、からまれちゃったら結構怖い人なんじゃないの……?!

「あ、いや、そ、その、偵察とかそういうわけではなくて……!ごめんなさいっ!」
「……ふうん、まあ、ええけど」

 ……あ、あれ?意外と怖くない。そんな彼はふわああ、と大きなあくびをしていた。もしかして、彼の目つきが悪そうに見えたのって、私を威嚇するとかそういうのじゃなくて、単に眠たかったからなのかな。そう思うと、なんだか親近感がぐっとわいてきた。しかも、今さらながら彼の口調は、白石くんと同じ関西弁。絶対彼は四天宝寺中の部員だ。だから、きっと白石くんの居場所も知っている。意を決して私は黒髪の彼に訊ねてみた。

「あっ、あの、」
「何です?」
「四天宝寺中の部員の方ですよね……?!」
「…そうやけど」
「あの、白石蔵ノ介くんってどこにいるかわかりますか?」
「……さすが部長っすわ。関東にまでファンいてるなんてさすがやわ~」
「え?ファン??」
「まあ、何でもええですけど。部長やったらあっちっすわ」

 彼が親指で気だるそうに指差した方向に、白石くんはいた。

「久しぶりだね」
「せやな。1か月半ぶりか?」
「うん、たぶんそれくらいだと思う」
「――今回は青学、残念やったな」
「うん……でも、ほら、私達にはまだ来年があるし!今日だって来年の予習しに来たんだもん」
「へえ、そらまた熱心やな。せやけど、そういうポジティブな考え方、俺はええと思うで」
「えへへ、ありがとう」

 久しぶりに会った白石くんは、部活のジャージを身にまとっている以外は、この前会った白石くんと何ら変わりはなかった。相変わらず、白石くんは話しやすい人で、まるでずっと前から友達だったかのような錯覚に陥る。あ、でも、変わったことといえば、彼は少し日に焼けたのかもしれない。日に焼けているということは、それだけ外で練習をしているということだ。しかし、私は、白石くんのテニスは見たことがない。彼がどんなテニスをするか少し気になった。そんなときだった。

「あらっ!蔵リン、そのかわいらしい子はカノジョさん?」
「はぁ?!白石に彼女?!」

 ちょんまげのカツラを被った眼鏡の男の子と、ブリーチ頭の男の子が、私の存在に気付いたのかそんなことを尋ねてきた。そ、そんな、まさか!!あわてて否定しようとする私より先に、白石くんは満面の笑みで言う。

「せやで。かわいいやろ?」
「え゛?!ちょ、ち、違っ!!白石くん、何言ってんの!!」
「……あかんなぁ支倉さん。ここは、上手く乗っからんと」
「だ、だって……!」

 冗談でもそんなこと、恥ずかしくて言えない。頬が熱くなっていく私を、ちょんまげの彼は「ノリはあんまりええとは言われへんけど、ホンマにかわいらしい子やねんなぁ」と笑っていた。そして、ブリーチの彼は少し呆れた顔で、白石くんに訊ねる。

「んで、ほんまは、その子誰やねん?」
「ああ。彼女は青学のマネージャーさんや」
「あっ、はじめまして、青春学園中等部2年の支倉麻衣です」

 ぺこりと頭を下げると、ちょんまげの彼とブリーチの彼も自己紹介をしてくれた。小春くんと、謙也くん。最初は私のことを品定めしているみたいでちょっと怖かったけれど、実際話してみると2人ともとても良い人で、自分の中の四天宝寺のイメージもどんどん良いものになっていった。そして、ふたりが私達の前からいなくなった後、白石くんは私の顔を覗き込んで、笑う。

「……まだ、ほっぺ赤い」
「白石くんのせいでしょ!」

 白石くんが、あんなこと言うから。

「はは。そんな真っ赤な顔で言われても、かわいいだけやって」

 白石くんはなんとなく言った台詞なのかもしれないけれど、私の頬は余計熱くなった。