4月、私たちの支店は色めきだっていた。パートのスタッフさんも、ここ最近メイクに気合が入っているように感じる。理由は、融資課の白石さんだ。
「新しく融資課に来た5年目の白石くん、ほんっとイケメンよね!」
「しかも仕事もできるし感じもいいし。20歳若かったら絶対好きになってた〜!」
パートさんたちは後方でまるで少女のように盛り上がっている。確かに気持ちはわからなくもない。初めて白石さんを見かけたのは、着任初日の朝礼だったが、なんだかイケメンすぎて発光してるんじゃないかと思った。
「でもやっぱり忍足くんも可愛いわよねー。忍足くんと白石くん、同期で仲良いんでしょ?イケメン同士仲良しなんて見てて幸せよね〜」
「わかる。忍足くんも相変わらず可愛いわぁ」
そうそう、ちなみに忍足さんもパートさんからの人気は高い。平和な会話を聞きながらも、新規口座開設のお客様がお待ちということで、私はお待ちのお客様をカウンターに呼んで仕事に勤しむことにした。
*
そして支店の営業終了後、私の担当する窓口にやってきたのは、噂の白石さんだった。
「2年目の支倉さん、ってキミのことやんな?」
「は、はい!2年目でローで個人営業担当してます支倉です」
「はは。自己紹介おおきに。俺は融資課で5年目の白石蔵ノ介や。これからよろしゅう。でな、キミに1つお願いがあんねん」
「は、はぁ、何でしょう…?」
「端末、まだ締めてへんよな?俺の口座作ってほしいねん。経費精算用のやつ。ええかな」
「あ、もちろんです。そしたらお客様のほうのイス座ってもらえますか?」
交通費等の経費は各支店の口座に振り込まれるようになっている。白石さんにお客様側に移動してもらう間、私は白石さんの口座を作る準備を整えた。
カウンター越しに向かいに座る白石さんに、口座開設の帳票を書いてもらいながら、ふと思う。事前に忍足さんから『クッソ優秀』で『腹立つほどイケメン』とは聞いていたけれど、その通り過ぎる。ほら、彼が帳票に書く文字もキレイだし。
「謙也がな、『口座やったら支倉に作ってもらい』言うて。それで業後、支倉さんとこ来たんや。キミ、謙也と仲ええんやな」
唐突にそう言われて、何と返していいのか困る。確かについ最近、彼氏と別れたときに励ましてもらって、しかも夕ごはんまでおごってもらってしまったけれど。
「確かに、忍足さんにはいつもお世話になってます。でも白石さんこそ、忍足さんと同期で仲良しって聞きました」
「まあ、中学からの親友やからな」
「え?!中学から?」
「せや。元々中学高校の部活の同期やねん。大学は違たから、就職先が一緒になったんはさすがにびっくりしたけどな」
「部活…何してたんですか?」
「硬式テニス」
「ええ?!テニス?!そんな話忍足さんから全然聞いたことなかった……」
「浪速のスピードスター言われとったわ。アイツ陸上部の勧誘くるくらい足速かったんやで」
浪速のスピードスターって、そういえば前に忍足さん言ってたやつだ。元ネタはこれだったのか。
そんな他愛のない話を続けながら、白石さんが書き終わった帳票を読み込んで、住所などを転記する。あれ、白石さん、最寄駅私と同じでは……?
「……白石さん。私、白石さんの家の近所に住んでるかもしれません」
「え、ホンマ?」
「はい。白石さん、駅の南側ですよね?私、北側です」
「マジか。そらまた奇遇やなぁ。謙也も呼んで3人で地元で飲めるな」
「あれ、忍足さんも同じ駅でしたっけ?」
「いや、アイツ、そもそも中央線。けどそう直線距離は離れてへんやろ」
そうこうしているうちに口座が出来上がった。今流行りの通帳なしの口座だ。キャッシュカードだけ即日発行して白石さんに渡す。
「助かったわ、おおきに。また話そな」
白石さんは爽やかな笑顔でそう言って、2階の融資課へと戻っていった。
──イケメンはずるい。なんだかときめいてしまったではないか。まあ、きっと美人な彼女がいるに違いないだろうけど。
to be continued…