今日は営業課のシュレッダー担当だった。シュレッダーにかけ終わった紙ゴミの入った袋をゴミ庫に格納し、ゴミ庫から出ようと振り返ると、渉外課のシュレッダーゴミの入った袋を持った忍足さんとばったり出会った。
「忍足さん」
「支倉」
「今日は忍足さんが渉外課のシュレッダー担当なんですね」
「せ、せやねん」
白石さんのアドバイスを受けて、勇気を出してみる。久しぶりに私から話しかけると、忍足さんの方が少し動揺していた。忍足さんは、ゴミ袋を指定された場所へ置く。
「──あの」
「何や?」
「この前ありがとうございました。お礼したいなってずっと思ってたんですけど、思いつかなくて……」
「あの時も言うたけど、お礼なんていらんて」
「でもそれだと私の気が済まないです」
そう言うと、忍足さんは私の顔を、じ、と見る。
「──ほな、それやったら、今まで通り普通に話してくれへん?あれ以来、思いっきし俺のこと避けるやん」
「だ、だってあんなダメなとこ見られて迷惑かけて……普通に顔合わせられないですもん……」
「……」
「避けてるつもりはなかったんです。ごめんなさい」
誠意を込めて頭を下げる。そして頭を元の位置に戻すと、忍足さんはほっとしたような顔をしていた。
「アホ。嫌われたんかと思って焦ったわ」
「あんなふうに助けてもらって、好きになることはあっても、嫌いになることはないですよ」
さらっとそんなふうに言ってしまったけれど、なんだか自分のセリフに恥ずかしくなった。忍足さんがさらっと聞き流してくれていたらいいのに、と思ったけれど、残念ながら忍足さんも一瞬固まっていた。
「……おふたりさん。ゴミ庫入るで」
そんな中、ゴミ庫の入り口の方から白石さんの声が聞こえた。融資課のシュレッダーゴミを捨てにきたのだろう。慌てて忍足さんから離れる。
「あ、白石さん、どうぞ!私、営業課戻りますね!」
「おっ、支倉さん、いつになく元気やな」
「もう。私はいつでも元気ですよ。では失礼します!」
そして、2人より先にゴミ庫から姿を消した私は、そのあと2人がこんな会話をしていたなんて、知る由もなかった。
「……謙也、よかったな。何があったか知らんけど『好きになることはあっても、嫌いになることはない』やって」
「! 白石、自分どっから聞いててん」
「さあな。支倉さんが『この前ありがとうございました』言うたときくらいからかな」
「それほぼ全部やん……!」
「公共の場でイチャつく方が悪いで。気ぃつかってゴミ捨てるの待っとった俺に感謝しぃや」
to be continued…