「さっむ…!」
思わず声に出てしまった。12月の札幌は、大阪府民にとってめちゃくちゃに寒い。なんならうっすら雪もちらついていたりする。
それでも、緯度が高いせいか、午後5時前だというのにすでに暗くなった空、澄みわたった空気、そしてキラキラと光るイルミネーションや街のネオンがとても綺麗でロマンチックだ。
「確かに寒いなぁ。耳ちぎれそうや」
「白石くん」
「せやけど、イルミネーション、めっちゃキレイやな」
「せやなぁ。めっちゃキラキラしとる感じする」
「寒い分、空気が澄んでるからやろな」
修学旅行で奇跡が起きた。なんと密かに片想いしていた白石くんと自由行動が同じ班になった。というのも、男女2名ずつ4人の班を作る必要があったのだが、白石くんは同じテニス部で親友の謙也くんとペアを組んでいて。そんな謙也くんの彼女が私の親友だった。そんなわけで、私たち4人で班を組むことになったのだ。
謙也くんと私の親友は、一応私たちのことは気にかけつつも、高校生の身分だとなかなかできない旅行先でのデートというものを楽しんでいる。だから、私たちは彼らの邪魔をなるべくしないように気を遣った。
数十メートル先に見える謙也くんと親友の背中から、隣にいる白石くんに目線を移すと、白石くんと思いきり目が合った。わ。待って。こんなガッツリ視線がぶつかるとは思わなかった。
「謙也たちも、こんなデート向きな雰囲気やったら、そら二人の世界入ってまうで」
札幌の街の南北を分ける大通公園。ガイドブックによると今の季節はイルミネーションに加え、クリスマスマーケットが開かれているらしく来てみたところ、本当にドイツ人の方がログハウス風のお店で接客をされていて、思った以上に本格的だった。
「確かに。せっかくやし逆に二人の時間を楽しんでもらいたいわ」
「はは。支倉さん、やさしいなぁ」
「そうかな……あ、せやけど、白石くんはやっぱり謙也くんおらんとつまらんか。私だけがおってもなぁ」
「こーら。誰もそんなこと言うてへんやろ」
「……怒られた」
「俺はラッキーや思ってるで。俺らも二人きりでデートできるやん」
え?!なんかめっちゃサラッとすごいこと言うてへん、この人。
「……でっ、デート?」
「あー嫌やった?すまんなぁ」
「い、嫌ではないですが!」
「はは。なんで敬語やねん。ほんまおもろいな」
白石くんは笑っている。そんな彼の鼻の頭と、髪の隙間からのぞく耳たぶも寒さで少し赤くなっていて、なんだかそれが可愛い。私の顔は今どんな状態だろう、きっと鼻の頭も耳たぶも彼同様寒さで赤くなっているはずだけれど、それに加えてきっと頬も赤いのだろう。バレるのが恥ずかしくて、マフラーに顔を埋めた。
「ほな、俺らも楽しもか」
そんな言葉とともに自然と手が繋がれて、一瞬理解が追いつかなくなった。え、夢?これ夢やったかな?でも、寒さでもはや痛くなってきた耳たぶと、白石くんの手から伝わる熱がこれが現実だと伝える。
「──手ぇ、めっちゃ冷えてるやん」
「あ、うん、そうですね」
「せやから、何でさっきから敬語やねん」
「き、緊張する」
「何で?」
この人わかってて絶対わざと聞いてるやん…!と思うけれど、実際はそんな抗議なんてできずに、何も言えずに彼の顔をちらりと見上げた。白石くんは意地悪な、それでいて楽しそうな笑顔を浮かべている。答えられない代わりに、悪態をついた。
「……白石くんはこういうの慣れてそうやな」
「お、心外やな。こう見えて俺も緊張してるで」
「何で?」
仕返しとばかりそう聞くと、白石くんは珍しく一瞬動揺した瞳の動きをしたけれど、瞬きをした後はいつも通りの声の調子で言う。
「──きっと、同じ理由や」
同じ理由──それって。さっきまであんなに寒かったはずなのに、繋がれた手も、頬も、何もかも熱い。もしかして、白石くんも、私のこと。
Fin.
2021.10.31