シアワセ

 お互いどんなに忙しくても、週に一度だけは二人で直接会う時間を作っている。恋人の蔵ノ介とは、中三の卒業間近の時期からお付き合いを始めてもう三年目。お互いの将来の夢の違いから違う高校に通っているけれど、幸い、お互いがお互いを大切に想う気持ちは変わらずにずっと続いている。
 今日もスタバで私の向かいに座る蔵は、私の学校とは違う制服を着ている。中学の時は学ランだったけれど、ブレザーもよく似合う。贔屓目なしにこの恋人はとても容姿に恵まれているので、何を着ても結局似合ってしまうのだけれど。

「蔵は、この一週間、どやった?」

 先にカウンターで購入した期間限定のフラペチーノを飲みながらそう尋ねると、蔵もドリップコーヒーを飲みながら「普通に勉強して、部活して、特にいつもと何も変わらへんかったなぁ」なんて言う。そして私も同じ質問を返された。

「麻衣は、どやった?」
「うーん……私も特に何も変わらへんかったかなぁ。あ、でも一つ報告したいことあった!」
「お、何や?」
「めっちゃどうでもええ話かもしれへんけど……うちの高校までの通学路にな、たまに猫が現れんねん。たぶん野良猫ちゃんやねんけど」
「そうなんや。はじめて聞いたな」
「はじめて言うたもん」
「はは。で、その猫ちゃんがどないしたん」

 蔵が私の話の続きを促すので、こちらも饒舌になる。

「で。その猫ちゃんな、今まで話しかけてもずーっと無視されとって……せやけど、昨日はじめて、話しかけても逃げずにいてくれて、しかも背中撫で撫でさせてくれてん。めっちゃ可愛えの。蔵のおうちの猫ちゃんには敵わへんかもしれへんけど。思わず動画も撮ってもうて……」

 と話に夢中で、あまり蔵の方をちゃんと見ていなかったけれど、ふと気づけば向かいの蔵は頬杖をつきながらニコニコとこちらを見ている。不意に我に返って恥ずかしくなった。蔵にとっては本当にどうでもいい話だろうに。

「っと、その、ごめんな?ほんまにどうでもええ話で……」
「全然。猫ちゃんも可愛えかもしれへんけど、猫ちゃんの話夢中でしとる麻衣も相当可愛えで」
「!?」
「おー照れてる照れてる。ほんまに可愛いわ」

 蔵はそんな私の反応を見て、「動画も見せてくれるんやろ?」と、なんだかとても幸せそうに笑っている。もちろん手を繋いだりキスをしたりすることでも幸せも感じるのだけれど、こんな日常にも幸せが詰まっているのかもしれないな、と思いながら、熱くなった身体を冷ますためにフラペチーノのストローを思い切り吸った。

Fin.
2021.12.2
2022.7.8改題