「あー楽しかった。光、今日はほんまにありがとう」
すっかり暗くなってしまった空の下で、麻衣先輩は、笑う。
久しぶりに制服デートをした。特に特別なことをしたわけでも何でもない。普通に校門で待ち合わせをして、適当に遊んで、そして帰ってきただけ。それでもテニスや受験勉強に忙しい俺達にとっては貴重な時間だった。
「……ほんま、楽しそうでしたね。あまりのはしゃぎようにいっしょにいて微妙に恥ずかしなりましたわ」
「またかわいらしないこと言う!久しぶりのデートやねんからテンション上がって当たり前やんか?」
「はいはい。そうですね」
「適当に流そうとしてへん?」
「気のせいすわ」
すると先輩は、わざと不機嫌そうな顔を作る。
そんな彼女の右手を自分の左手で掠め取ると、一気に彼女は動揺した。
「ぷっ、変な顔」
「!! いきなり手ェつないできたのそっちやん!」
「手ェつないだだけで動揺しすぎや」
「『だけ』て、そら光にとったら『だけ』かもしれへんけど…」
――こっちはどきどきしっぱなしやねんで。
そう小さく呟く彼女が素直に可愛いと思う。俺が絡めた指に少し力をこめると、彼女もその手をおずおずと握り返した。
「でも。ほんまに今日は楽しかってん。最近受験勉強ばっかりで、ろくに遊びにも行けてへんかったから」
「そない勉強してはるんですか」
「四天宝寺高校、ひそかに偏差値高いんやもん」
「別に四天宝寺やなくても、他の高校でもええんちゃいます?」
「……光も、1年後、四天宝寺受けるんやろ?学年1コ違うせいで来年1年は離れてまうんやし、せめて同じ高校行きたいやん」
真面目な顔でそう呟く麻衣先輩に面食らった。まさかそんなことを考えているとは思わなかった。
「最近な、こうして学校帰りにデートしたりできるのもあとちょっとなんやなぁ思て……」
「まあ、そうですね」
「けど、もし同じ高校行けたら高校2年間はまたいっしょに過ごせるやんか?」
笑ってみせる麻衣先輩の手を繋いだまま弄ると、彼女の中指にペンダコができているのが確認できた。
――ああほんまにこの人は頑張ってるんや。
「ちょ、光何してるん?」
「……麻衣先輩って、ほんま、そういう人ですよね」
「え、」
つないでいた手を引っ張って、その中指にキスを落とす。
「な、何しとん?!ここ、外やで」
「わかっとりますわ。せやから、口やなくて指やっただけでも感謝してください」
「意味がわからへん…!」
真っ赤になった麻衣先輩は、ふい、と俺から目をそらす。そんな麻衣先輩にばれないように、俺は、おそらく今年最高の笑みを浮かべた。
Fin.
2009.11.29